投稿日時: 2023/03/08 17:11
最終更新日時: 2024/06/30 04:58
こんにちは.ざるご(@zalgo3 )です.
今年の10月に,京都大学大学院情報学研究科数理工学専攻の修士課程を1年半で短期修了し,同専攻の博士後期課程に進学いたしました.
いわゆるD進((博士課程進学のこと.博士課程 = Doctoral course))というやつです.
専門は「連続最適化」と呼ばれる分野で,制御理論や機械学習などと関連があります.
この記事では,自分の専門分野について深く話すことはしませんが,博士課程に進んだ理由と,博士課程での目標について話していこうと思います.
これから博士課程,あるいは研究者を目指そうとする方や,**「研究者ってどんなことをやるんだろう?」**と漠然と気になっている方のご参考になれば嬉しいです.
大学のシステムにあまり馴染みの無い方もいるかもしれませんので,軽く説明しておきます.
そんなの知ってるよ!という方は読み飛ばしていただいて構いません.
一般的にイメージされる「大学」は4年で終わりますが,主に理系では,大学院と呼ばれる上位の学校に進学する人が多いです.
大学院は, 修士課程(2年間)と博士課程(3年間)に分かれていますが,多くの大学院生は修士課程が修了すると同時に大学を去り,民間企業に就職します.
一方,博士課程に進学する人は,大学教授などの研究者を目指す人が多いです.
大学教授というと,「大学生に講義をしている人」というイメージが強いかもしれませんが,実は彼らの本職は**「研究」**です.
「研究」というのは,平たく言えば,「未解決問題を解く方法を探す」ことです.
すなわち,研究者の仕事は,そのような問題に対する解法を探すことと言えます.
また,解法を見つけたら,研究者はその解法を世に発表しなければなりません.
その時によく使われる媒体として,学会と論文というものがあります.
まず,学会というのは,研究者だけが集まる「発表会」のようなものです.
研究者は,自分の研究を学会に向けてプレゼンし,研究内容の是非を他の研究者と議論します.
また,論文というのは,研究のプロだけが読む報告書のことです.
書籍と違って論文はプロ向けの書類なので,その中身はとても厳密に書かれています.
研究は,論文として投稿され,他の研究者たちによって厳密に審査された上で,はじめて研究として認められるのです.
博士課程では,学会発表や論文などを通して,研究のプロになるためのトレーニングが行われています.
博士課程を卒業し,博士号という資格をもらうためには,世界的に評価される論文を何本か投稿することが条件になっていることが一般的です.
上でも書いたように,多くの大学院生は,修士課程を卒業と同時に就職の道を選び,博士課程に進む人は殆どいません.
博士課程に進む人の割合は同世代の中で**わずか0.7%**ということで,「ふく」の文字が大きいレア雪見だいふくの5倍も珍しい人間ということになります.
なぜそんな珍しい道をわざわざ選んだのか?
結論から言うと,**「進んでも大丈夫だと思ったから」**というのが一番の理由です.
博士課程に進むメリットというのはたくさんあります.
などなど….その中でも特に自分が大きいと思っているのが最後の点で,要は
一日の大半を自分のスキルアップに使える
という点に強みを感じています.
上に書いたような博士課程の強みは,おそらく修士卒で就職する大多数の学生も感じているところです.
それでも彼ら/彼女らの多くが就職の道を選ぶのは,博士課程進学にはメリットを上回るデメリットがあるからだと思います.
確かに,修士卒で就職すれば,金銭面で困ることは少なくなるし,安定した雇用にありつけます.
また,企業の中にも研究を行う職種というのは数多くあり,必ずしも博士課程に進学しなくとも,研究を仕事にすることは可能です.
こと自分の立場に関して言えば,上で述べたデメリットは,あまり大きなものではありませんでした.
まず就職に関して言えば,幸い私の専門である情報系の分野は,博士卒であっても就職先にはそこそこ恵まれています.
確かにアカデミア(大学・研究機関等)での就職であれば,その後も任期付きのポストが続きますが,情報系であれば,企業に就職することも十分可能です.(修士卒より枠は少ないですが.)
最終的にアカデミアに行くかどうかついてはまだ数年後まで迷うことができます.
ならば,ひとまず博士課程に進学しておくこと自体に問題はないのではないかと判断したわけです.
また,在学中の資金面に関してですが,幸運なことに,学振DC1((文部科学省所管の独立行政法人「日本学術振興会」が,学術の将来を担う優れた研究者となることが期待される博士課程学生に研究奨励金と研究費を与える制度のこと.))というものに採用内定をいただいており,4月から月額20万円の給料を国からいただけることになっています.
ボーナスなどは当然なく,税金や授業料も支払わないといけないので,決して裕福とは言えませんが,生活に苦労することはないと思います.本当にありがたいです.
最後に,博士号取得に関しては,気合でなんとかします(え
博士号取得の条件として,論文誌に3本論文を通すことが条件とされているのですが,一応修士課程の間にすでに論文を1本投稿した実績があるので,スタート地点としては悪くないのかなと思っていたりはします.
また,修士の短縮修了を認めてもらえたというのも精神的には大きかったです.
通常であれば修士課程の途中であるタイミングで博士課程へ進学することを大学から認めてもらえたということは,少なくとも現時点までの業績でいえば博士課程に進んでも問題ないと判断してもらえたということだと自分に言い聞かせました.
もちろん,そんなちっぽけなリードは,博士でサボれば一瞬で吹き飛んでしまうと思います.
そうならないためには,とにかく頑張るしか無いですね.研究頑張るぞオラ!
とにかく,自分の立場では,ある程度博士課程進学のリスクは軽減されています.
また,博士課程では,学生という身分もあり,会社に入るよりも自由に時間の使い方を決められます.
うまく時間を使って,強大なスキルを手に入れられれば,つよつよです.
つよつよになれる可能性があるなら,多少のリスクなら取る価値はあると判断しました.
もちろん,結局何もうまく行かず,絶望的な人生を送ることになってしまうかもしれません.
ですがリスクを取った以上それは仕方のないことです.なるべくうまくいくよう,全力で頑張っていきましょう.
主にやりたいことは2つあります.
1つは,幅広い研究力・技術力を鍛えること.
もう1つは専門外の人に研究を伝える力を鍛えることです.
修士課程で論文を書いたことがあるとはいえ,僕の専門である最適化全体に対して僕が持っている引き出しの数は圧倒的に足りていません.
分野内のさらに狭い領域ではある程度最先端の話がわかりますが,少しでも自分の専門から離れると全然わからない,というのが現状です.
修士号を取るまでの2.5年は,最適化をふんわり理解して,局所的にちょっと深堀りしてみた,という段階でした.
なので,これから3年間は,今までよりも広く,そしてより深く研究を行っていこうと思っています.
たくさん論文を読み,研究し,そして論文を書き,シュッと最適化できるようになるべく,頑張っていきます.
そして,欲を言えば,自分の専門が分野外にも役に立つことを見つけて,プログラムに実装したりもしていきたいです.
このブログを書いている現在,某AIベンチャーでインターン生としていろいろプログラムを組んでいたりもするのですが,思いの外,最適化が世の中の役に立つことは多いと実感しています.(たとえばこれ→ブラックホール撮影にも使える「スパースモデリング」とは?【機械学習】)
**すぐには役に立たない数学的な研究もやりつつ,ちょっと役に立ちそうなこともやり,理論研究も応用も両方できるような人材になる.**これが僕の博士課程における第1の目標です.
テクニカルなことを極めるのも大事ですが,それを人に伝えることも同じくらい大切なことだと思っています.
いまこうしてブログを書いていることも,そのための活動の一環です.
優れた研究が数多く生み出されている一方,そのことが外にあまり伝わっていないのは,学術界の良くないところだと思います.
研究者って,世間からは**「なんか難しそうなことやってる人」**くらいにしか思われていなかったりするんじゃないでしょうか?
僕は,博士課程や,その先の人生を通じて,そんな状況を少しでも変えたいと願っています.
そのためには,少しでも多く外部に発表する機会を作り,良質な発表をしていくことが重要です.
まず,学会には積極的に出て,スライドの細部までこだわってわかりやすい発表を心がけようと思います.(これは修士でもやってきました.)
また,今後はネットでの情報発信にも力を入れていきたいです.
先程もリンクを貼ったこれみたいな技術的な解説記事は,インターネット上に圧倒的に不足しています.((プログラミング関連の記事は多いですが,数学が出てくるととたんに減る印象))
研究の合間を縫って,論文や教科書よりカジュアルに読める技術記事をたくさん書いていきたいです.
ブログの他にも,Twitterでも,専門分野のことから一般的なことまで,幅広く情報発信を行っていきます.
また,研究と直接関係はありませんが,趣味でやっている歌ってみたやゲーム実況も続けていくつもりです.
僕は,研究者の「なんか難しそうなことをやってる人」というイメージを崩すためには,こういった一見関係のないような活動も重要だと考えています.
なぜなら,そのほうが中高生や大学生に興味を持ってもらいやすくなるからです.
歌やゲームを通じて僕を知った人が,その流れで研究や技術に関する記事を読み,研究者の道に興味を持つ,ということは十分に有り得る話です.
僕はジョン・ナッシュ((ゲーム理論の「ナッシュ均衡」などで知られる天才数学者.彼の指導教官が彼をプリンストン大学に送り出すときに書いた推薦書の中身は,「He is a mathematical genius. (彼は数学の天才である.)」だけであった.))のような天才ではありません.なので,研究に人生のすべてを捧げたとしても,学術界に対する寄与はたかが知れています.
ならば,自分一人で研究を行うよりも,少しでも多くの人を研究に巻き込んだほうが,学術界への寄与は大きいのではないでしょうか?
**研究者として研究を行いながらも,様々な活動を通じて幅広い層にリーチして,多くの人に研究に興味を持ってもらう.**これが僕の博士課程における第2の目標です.
楽観的なことをたくさん書きましたが,これから先,たくさんの厳しい試練が僕を待ち受けていると思います.
研究がうまく行かない,そんな日もあるでしょう.いや,そんな日ばかりかもしれません.
ですが,そんなときも,ここに綴った目標を忘れず,前向きに頑張っていきたいと思います.
最後になりますが,
Twitterフォローしてね!!→@zalgo3